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全戦全敗主義

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 先日コメント欄にて話していた、以前ぬほがちさん用に書いたキノの二次創作です。しかしこんな物を作品と呼ぶこと自体が愚かしいと思えるようなものになってしまっていますが、暇で暇でしょうがないから読むという方はその辺のことを分かっておいて下さい。
ちなみに、折角なので一括で載せてしまうつもりでしたが、ブログの記事としては余りに長く、携帯からだと異常に辛くなるので3つくらいに分けます。



 空は濃いグレーの雲に覆われ、そこから大粒の雨が地面に向けて大量に投下されていた。
 一台のモトラド(二輪車のこと。空を飛ばないものだけを指す)が、降りしきる雨に激しく打たれることなく走っていた。
 そこは森の中に出来た細い一本道で、森は広く、その広さに合わせるように木の一本一本も太い。それでいて生えている木の密度も高く、隣り合う木の枝が触れ合うほどだった。そのため、空から迫る雨粒のほとんどは地面に到達する前に木の葉に行く手を阻まれ、モトラドは濡れないのだった。しかし、
「あぁ、走りづらい・・・。」
「十七回目。」
モトラドの運転手は、モトラドの言うとおり十七度目の―――それも全く同じ―――愚痴をこぼしていた。
 森の中の一本道は、太い木の根があちこちから張り出し、路面の起伏はだいぶ激しい。今運転手と会話しているモトラドは、どう見てもオフロードを走り回るようなものではなく、木の根を乗り越えて着地する度にガシャンッ!という今にもどこかから螺子の一本バネの一つでも落ちてきそうな音を立てていた。
 運転手がエルメス、と話しかけ、モトラドが何?と返した。
「いちいちしつこい。・・・・・・まあ、いつもの事だけれどね・・・。」
ふぅー、と大きな溜息を吐く運転手に、エルメスと呼ばれたモトラドが返す。
「それはお互い様でしょ?キノだってほとんど一定間隔で『あぁ、走りづらい』を繰り返しているんだし。」
「…………」
キノと呼ばれた―――十代中頃で、均整の取れた顔には、今は少し眠たげな無表情。黒いジャケットの上に茶色のコートを着ている。―――運転手は答えず、ただ心なしか渋い表情を作ったがそれもすぐに消えて元の表情に戻った。
 一人と一台は無言のまましばらく走り続けた。そして雲が晴れ、太陽が頂点から少し下り始めた頃、
「あ、キノォ、あれじゃない?」
唐突にエルメスが言った。あれ?とキノは目を細めて先を見るが、キノの目には幹の黒い茶色と葉の深緑しか映らなかった。
「でも、エルメスがそう言うんだったらそうなんだろうね。………ところでエルメス。」
「何?」
「前々から気になってはいたんだけれど、気にしないようにしようとは思っていたんだけれど…………」
「何さ。もったいぶらないでよ。」
「うん。………じゃあ思い切って聞くけど、エルメスは何処で見てるんだい?」
「え…………?いや、それは……」
「やっぱりそのライト?それともどこかにカメラが付いてるとか?むしろ見てるっていうよりは音か何かで認識してるのかい?コウモリみたいに」

ここからの会話は原作「キノの旅」のイメージを割とぶち壊す感じになっています。かと言って別にエロくはないです。それでも嫌な方はアンダーライン部分を読まないようご注意下さい。

「こんな時だけ饒舌にならないでよ。キャラが逆転しちゃっても良いの?そうなるとこっちの方がキノよりも人気が出ちゃうかもよ?そしたら『キノの旅』じゃなくて『エルメスの旅』ってタイトルになって内容紹介でも『言葉を話す二輪車エルメスが人間を乗せて旅をする物語』になってそれで表紙絵も」
「話をはぐらかすのが巧くなったね、エルメス。大丈夫、エルメスがそれだけ喋ってればキャラは逆転しないはずだよ。それにそんなにいやならもう聞かないよ。悪かったね、エルメス。」


はい、イメージをぶち壊す会話は以上です。ここからは普通にお読み下さい。

 ようやくキノにも、木々の間から緑と焦げ茶色以外の、人工物の色が見えてきた。それは煤けた灰色の普通の城壁のような色で、近づいてみるとやはり普通の城壁だった。城壁の周りは、車が2台悠々とすれ違えるほどの広さで木が伐採されて道が出来ていた。地面には長方形の石が敷き詰められ、綺麗な石畳の道になっていた。キノがその道に入っても、正面には城門やその他の入り口と思しきものは無く、
「…………。」
少し迷って左側から時計回りに走り始めた。
 走り始めて間も無く、城門が見えてきた。大きな城門脇の詰め所には番兵が一人。明るい青色の軍服を着て机に向かって、眠っていた。キノは迷い無く詰め所の窓ガラスを叩いた。静かな森の中に、ガンガンガン、と大きな音が鳴った。響きはしなかった。突然夢―――を見ていたかはキノにはわからなかったが―――から引き戻された番兵はゆっくりと顔を上げ、そしてキノを見つけるとびくっと身を震わせ、す、すみませんでしたっ!と再び頭を下げて机に顔面をぶつけた。詰め所の中でごんっと鈍い音が鳴った。今度は響いた。

***

 その日の昼頃、一人の旅人さんがボクの国にやってきた。旅人さんは右の腰から大きなハンド・パースエイダー(銃器のこと。この場合は拳銃。)を吊っていて、短い黒髪の若い人だった。モトラドを押しながら歩いていたので、多分それに乗って旅をしてるんだろうな、と思った。ボクの国に旅人さんが来るのは珍しかったので、ボクはその人をなんとなく眺めていた。旅人さんはきょろきょろと辺りを見回して、そしてボクに気付いたらしかった。しかも何故かこっちに向かって歩いてきた。
「こんにちは。」
「こんにちは。」
旅人さんはボクにそう挨拶をして、ボクもそう挨拶をした。近くで見ると、旅人さんの目はとても冷たく光っているように、僕には思えた。
 「この辺で、と言うかこの国でシャワーが付いていてモトラドを入れられて、それでいてそれなりに安いホテルはあるかな?あったら場所を教えてほしいんだけど。」
 ボクはそういう、主に旅人さんを相手にしているようなホテルを知っていたのでそれに同意し、そこであることに気付き、そう言えば、と旅人さんに尋ねた。
「何かな?」
旅人さんは聞き返す。
「失礼ですけど、旅人さんのお名前を教えて頂けますか?その方が何かと便利なもので。」
「…………。」
 旅人さんは一瞬だけ目を見開いて、それから、キノと名乗った。
 知っている名前だった。

***

 その日入国した茶色のコートを着た人間(以下、茶色のコート)は、入国してすぐに出会った十才くらいの少年に案内されて、四角くてそれほど大きくないコンクリートの建物の前にやって来ていた。
 建物の外壁は白く綺麗に塗られていて汚れ一つ無く、デザインもシンプルでありながらどこか洗練された印象を与えるセンスのあるものだった。それを見て茶色のコートの連れのモトラドが、
「へぇー、なかなか良い感じだね。モダンだし無駄が無い。清潔感もあるし、少なくともキノにとっては良いんじゃない?」
と言った。
「…………。」
何故か茶色のコートは、外側からは鏡のようにしか見えないガラスを見たままじっとしていた。
「キノー?」
「え?あ、ごめんエルメス。何?」
「別にー。」
「……そう。」
つまらなげに言ったモトラドにそう返して、やっと前髪から手を離した。
 その白い建物は、外見上は全く同じ物が三棟、三角形の頂点に来るように配置されていた。その中心にももう一棟同じ形の建物があったが、それだけは他の三棟とは対照的に真っ黒だった。
 そのことについて茶色のコートが少年に尋ねようとすると同時に、黒い建物から人間が出てきた。その人は二十代半ばくらいの背の高い青年で、白いセーターにグレーのスラックス姿、明るい茶色の髪を短く刈り込んであった。青年は小走りで二人と一台に近寄ってきて、軽く息を整えながら「やぁ」と挨拶をした。
「こんにちは。旅人さん、だね?」
「はい。ボクはキノ。こちらは相棒のエルメス。」
「どうもねー。」
青年は二人、いや一人と一台の自己紹介を聞きながら、ほぅとか、うんうんとか、なるほどなるほど、などとしきりに相槌を打っていた。旅人は喋りながら、癖なのかな、とは思わなかった。男の目は、物珍しさなどで茶色のコートの話を聞いている風ではなかったからだ。一応述べておくと、当然だが、コートが喋っているわけではなく、それを着ている人間が喋っている。もしコートが喋っていたら、別の意味で物珍しさ以外の目で見るはずである。
「キノさんにエルメス君か。僕は、このホテル、いや、そんな大した物じゃないな。ここはもっと端的に宿泊施設と言っておこう。この宿泊施設の管理人で、シミラーと言う。よろしくね。」
「………っ!」
青年―――シミラーは柔和な笑みでそう言った。彼のちらりと覗く白い歯がきらりと光ったことに、旅人は驚きを隠せなかった。
「やっぱり斬り過ぎたかも、前髪。」
と、誰にも聞こえないように呟いた。


 茶色のコートはシミラーに案内されて白い建物の一棟に入り、簡単に中の設備の説明を受けたあと、都市部へと出かけた。そこでモトラドの給油をし、
「ま、たまにはね。」
と整備に出そうとして、やめた。茶色のコートはモトラドが長々と文句を言うのを覚悟していたが、
「そ、そりゃあね。あれじゃあね…。」
と、納得した様子だった。
「いやー、『そこはかとなく』恐かったよ。」
「エルメス、意味も無く『』を付けた単語を使うのはやめておいて。ツッコミを入れなきゃならないかと思って身構えちゃうから。」
「失礼な。ま、今はとにかくあそこで整備みたいなことをされなくて良かったよ…。」
整備工場では、八十歳近いのではないかという老人が燃料が詰まっているであろうドラム缶に座って煙草を吸っていた。煙草を持つ手は小刻みに震えていた。
 茶色のコートは街で売れるものを売り、携帯食料などの消耗品を買い込んだ。その最中、モトラドが
「ねぇキノ。」
と問いかける。
「ん、何?」
茶色のコートはナイフの品定めをしながら聞き返す。ここでも、もちろんコートが(以下省略)。
「あの『ホテル』の中でどんな話してたの?」
「あぁ、いや、別に大したことは………あっ!エルメス、続きはまた後でね!」
「え?どしたの?」
「今から向こうで制限時間付きの安売りをするみたいなんだ!この機会を逃すわけにはいかないからっ!」
そう言って、茶色のコートは野生の豹に匹敵せんばかりの速さで駆け抜けて行った。モトラドは、その後姿を見送りながら
「あぁ、‘タイムサービス’ってヤツね。……ってモトラド無しでも旅が出来そうじゃん。」
誰にとも無く呟いた。

***

 買い物を終えた後、季節柄荒涼とした田園地帯のあぜ道をモトラドが一台、騒音を響かせながら走り抜けて行く。
「ねえねえ。」
「うん?何だい?」
「あの宿泊施設って奴の中でどんな話してたのさ?聞かせてよ。」
「あぁ、そう言えばそんなこと言ってたっけ。でも、別に大したこと無いよ。シャワーは使い放題だとか、シーツの替えはベッドの下に入っているから自分で変えること、とかね。あ、後ドアは鍵をかけなくても自動的に閉まるようになっているから鍵なしでは外に出ないこと。それに関連して夜遅くには鍵を使っても開けられないようになってるから早めに戻った方が良いって。」
「ふーん。」
「何か質問は?」
「無し。」
「何さ、自分から聞いておいて。……まぁ良いや。そんなことよりも、今は…。」
「うん、早く帰らないとね。そろそろ暗くなってきたし。」
「それもそうなんだけど、ちょっと気がかりもあるしね。いやいや、それよりもそれよりも………今はお腹が減ったよ。」



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